年商10億円という数字を、遠い目標として見ている経営者は、少なくないと思います。
「そこまで行けば、何が変わるのだろう」 そんな好奇心を持ったことは、ないでしょうか。
正直に言えば、年商10億円という規模に立ったとき、見える景色は、
そこに至るまでとは、かなり違ったものになります。
今日は、その視座の変化について、
実践を通じて感じてきたことを、正直にお伝えしたいと思います。
結論:変わるのは「数字」ではなく「見る対象そのもの」
年商10億円という規模に到達すると、
多くの人は「扱う金額が大きくなること」を想像すると思います。
もちろん、それも事実です。ただ、本質的に変わるのは、金額の大小ではありません。
- 見ている時間軸が、今月や今期から、数年先へと変わる
- 見ている対象が、自分の仕事から、人と仕組みへと変わる
- 見ている数字が、売上から、キャッシュフローと資産性へと変わる
これらは、すべて「何を見ているか」という視座そのものの変化です。
数字が大きくなるにつれて、自然とこの変化が起きるわけではありません。
意図的に視座を変えていかなければ、規模だけが大きくなり、
経営そのものは、以前と同じ視座のまま止まってしまいます。
時間軸への視座:今月の数字から、数年先の景色へ
創業初期は、今月の売上、今月の資金繰りが、最大の関心事です。
それは当然のことで、目の前の一ヶ月を乗り越えられなければ、その先の話をすること自体ができません。
しかし、年商10億円という規模に近づくにつれて、見るべき時間軸が変わっていきます。
今期の数字を追いかけながらも、
「3年後、この事業はどうなっているか」
「この投資は、5年後にどんな意味を持つか」
という視点が、日々の判断の中に、自然と組み込まれるようになります。
目の前の売上だけを追い続けていると、いずれ規模の天井にぶつかります。
数年先を見据えた判断を積み重ねられるかどうかが、
この規模を超えられるかどうかの、一つの分かれ目になると感じています。
人への視座:自分がやる、から、誰に任せるかへ
創業期は、社長自身がプレイヤーとして動くことで、事業が前に進みます。
営業も、現場も、資金繰りも、すべて自分の手の中にあります。
しかし、年商10億円という規模になると、自分一人が動ける量には、明確な限界が訪れます。
そこで問われるようになるのが、「この仕事を、誰に任せるか」という視座です。
これは、単に業務を分担するという話ではありません。
判断そのものを、誰かに委ねられるかどうか、という話です。
自分がすべてを把握し、すべてを決めるという状態から、
任せた相手を信頼し、その判断を受け入れるという状態へ。
この移行は、頭で理解していても、実際に手放すとなると、簡単なことではありません。
それでも、この視座の変化なしに、年商10億円という規模を、安定して超えていくことは難しいと感じています。
数字への視座:売上から、キャッシュフローと資産性へ
創業期は、売上という数字が、経営の分かりやすい指標になります。 売上が伸びれば、事業が成長している実感が得られます。
しかし、年商10億円という規模に近づくと、売上という数字だけでは、経営の実態を捉えきれなくなっていきます。
見るべき数字は、キャッシュフローの安定性、利益の質、そして会社そのものが持つ資産性へと広がっていきます。
売上が伸びていても、キャッシュフローが不安定であれば、経営としては危うい状態です。
逆に、売上の伸び以上に、会社という資産の価値が積み上がっているのであれば、それは着実な成長だと言えます。
この視座を持てるようになると、目先の売上増減に一喜一憂することが、少しずつ減っていきます。
リスクへの視座:攻めるリスクから、守りと攻めのバランスへ
創業期は、リスクを取って攻めることが、事業を前に進める原動力になります。
何もない状態から始めるからこそ、多少の無理をしてでも、前進する選択が求められます。
年商10億円という規模になると、守るべきものの大きさが変わってきます。
社員とその家族の生活、取引先との関係、これまで積み上げてきた信用。それらを守りながら、次の成長のためのリスクを取る、というバランス感覚が求められるようになります。
攻めるだけでも、守るだけでも、この規模の経営は成り立ちません。
両方の視座を、同時に持ち続けることが必要になります。
自分自身への視座:現場のプレイヤーから、経営という仕事そのものへ
最後に、最も大きな変化かもしれないと感じているのが、自分自身への視座の変化です。
創業期は、
「良い商品をつくること」「良いサービスを提供すること」
が、そのまま経営そのものでした。 現場の仕事の延長線上に、経営がありました。
しかし、年商10億円という規模になると、
「経営そのものを、一つの専門性として扱う」という視座が必要になってきます。
現場が得意だから経営もできる、というわけではありません。
人を育てること、仕組みをつくること、数字を読むこと。それぞれが、独立した技術として、意図的に磨いていく必要があります。
この視座の転換に気づけるかどうかが、規模の拡大とともに、経営者自身が成長し続けられるかどうかを、大きく左右すると感じています。
もう一つの視座:もっと大きな山が、見えてくる
ここまでお話ししてきた視座の変化に加えて、もう一つ、正直にお伝えしておきたいことがあります。
年商10億円という規模を超えると、それより大きな会社を、
これまでよりずっと身近に見聞きするようになります。
経営者同士の集まりや、業界の中での立ち位置を通じて、自分より遥かに大きな規模で経営している人たちと、実際に接する機会が増えていくのです。
この感覚を、
漫画「バガボンド」の、あるシーンを思い出しながら説明したいと思います。
宮本武蔵が、戦って戦って、ようやく一つの山を登り切ったと感じ、霧の中で腰を下ろして休んでいる場面があります。 やがて霧が晴れてくると、周囲にそびえ立つ、もっと大きな山々が、いくつも姿を現します。それを見た武蔵が、「自分など、たいしたことがなかったのか」と、思わず笑ってしまうという場面です。
年商10億円という規模を越えた先に、これに近い感覚を味わうことがあります。
自分なりに、ここまで必死に登ってきたつもりでいたのに、霧が晴れてみると、はるかに大きな山々が、いくつもそびえ立っている。 その事実に触れたとき、心を大きく揺さぶられる瞬間が訪れます。
この経験は、決して自分を卑下するためのものではありません。
むしろ、自分の立ち位置を、より広い視野の中で捉え直す機会になります。
今まで見えていなかった、次の山の存在に気づけること自体が、視座が一段上がった証でもあります。
大きな山を見て笑ってしまえるかどうかも、経営者としての、一つの器量なのかもしれません。
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視座は、規模が変わる前に、少しずつ準備できる
ここまでお話ししてきた視座の変化は、年商10億円に到達してから、突然身につくものではありません。
むしろ、規模が小さいうちから、少しずつ意識しておくことで、実際にその規模に近づいたときの戸惑いを、小さくすることができます。
- 今月の数字だけでなく、数年先を意識する時間を、定期的につくる
- 小さな判断から、誰かに任せる練習を始める
- 売上だけでなく、キャッシュフローや資産性という視点で、自社を見る習慣をつける
視座は、規模が変わってから身につけるものではなく、規模が変わる前から、少しずつ育てていけるものだと感じています。
相談すべき目安:こんな状態なら専門家に相談を
自分自身の視座の変化を、一人で模索し続けるのが難しいと感じる場合は、次のような状態にあるとき、一度外部の視点を入れることをおすすめします。
- 売上は伸びているが、経営の実感がついてきていないと感じる
- 任せることの重要性は分かっていても、実際には手放せずにいる
- 数年先を見据えた判断が、まだ日々の業務に組み込まれていない
- 攻めと守りのバランスを、どう取ればいいか分からない
これらに一つでも当てはまる場合、自己流で視座の転換を模索するより、実践知のある第三者と一緒に、自社の状況に合わせた次の一手を整理したほうが、着実に前進しやすくなります。
■よくある質問
Q1. 視座は、年商10億円に到達しないと変わらないのですか。 そうではありません。むしろ、規模が小さいうちから意識的に視座を広げておくことで、実際に規模が拡大したときの対応がスムーズになります。
Q2. 任せることが苦手です。どこから練習すればいいですか。 影響範囲の小さい判断から始めることをおすすめします。小さな成功体験を積み重ねることで、任せることへの不安は少しずつ和らいでいきます。
Q3. キャッシュフローや資産性は、どうやって意識すればいいですか。 専門的な分析でなくても構いません。まずは、売上だけでなく、手元資金の推移や、会社に積み上がっている価値を、定期的に確認する習慣を持つことから始めてください。
Q4. 攻めと守りのバランスは、どう判断すればいいですか。 明確な正解があるわけではありません。守るべきものの大きさと、狙う成長の大きさを、その都度天秤にかけながら判断していく姿勢が重要です。
Q5. 経営を「専門性」として磨くには、何から始めればいいですか。 まずは、人を育てること、仕組みをつくること、数字を読むことといった、経営に必要な要素を、現場の仕事とは別のスキルとして意識することから始めることをおすすめします。
■まとめ
年商10億円という規模に立ったとき、変わるのは金額の大きさだけではありません。
時間軸、人への向き合い方、数字の見方、リスクの取り方、そして自分自身への向き合い方。
それぞれの視座が、大きく変化していきます。
そして、その先には、もっと大きな山々が見えてくる瞬間も待っています。
一つの山を登り切ったと思ったところで、霧が晴れて、さらに大きな山に気づく。そのとき心が揺さぶられる感覚こそ、次の成長への入り口なのだと思います。
これらの視座は、規模が変わってから身につくものではなく、規模が変わる前から、少しずつ準備しておけるものです。 今、どの視座に向き合うべきかを考えることが、次の規模へ進むための、最初の一歩になります。
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株式会社バリュー経営 山縣正二郎
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