社長の仕事は週10時間でいい。
そう聞くと、多くの経営者が違和感を覚えます。
中小企業経営者に向けて、週10時間経営という考え方の本質と、そこに踏み込むほど見えてくる現実的な壁について解説します。
「社長の仕事は、週10時間でいい」
そう聞いて、すぐに納得できる経営者は、多くありません。
現場対応、営業、採用、資金繰り、幹部育成。 やるべきことは山積みで、週10時間どころか、休みなく働き続けている経営者も少なくないはずです。
だからこそ、この言葉には、大きな違和感を覚える方が多いと思います。
本記事では、週10時間経営とは、どういうことなのか、そして、一歩踏み込むと見えてくる現実的な壁について整理します。
結論:週10時間経営とは「社長が現場から抜けても、会社が回る状態」を目指す考え方
週10時間経営とは、文字通り、社長が毎週10時間だけ働けばよい、という意味ではありません。
社長が現場対応や日々の細かな判断から離れても、会社が自走して回り続ける状態をつくる。
その結果として、社長本来の時間の使い方が、週10時間程度の「経営そのもの」に集約されていく、という考え方です。
現場対応、採用、育成、資金繰りの細かな確認。 これらの業務が、社長個人の稼働に依存し続けている限り、時間はいくらあっても足りません。
週10時間経営は、この依存構造そのものを見直そうという、経営の設計思想です。
なぜ、多くの社長が「週10時間」を実現できないのか
現場に入り続けることが、習慣になっている
創業期からのプレイヤーとしての働き方が、会社が成長した後も、そのまま続いてしまうことがあります。
「自分がやった方が早い」という感覚が根強いと、権限委譲は進みません。
判断基準が、社長の頭の中にしかない
見積もり、採用、クレーム対応。 日々の判断が、言語化されないまま社長の感覚に依存していると、他の誰かに任せることができません。
「これは、自分が判断するしかない」という状態が積み重なり、社長の時間はどんどん奪われていきます。
仕組みより先に、人を増やしてしまう
業務量が増えたときに、仕組みを整える前に、人員だけを増やしてしまうケースは少なくありません。
その結果、属人的な業務が、単に人数分だけ増えていくという状態が生まれます。
もう一歩踏み込むと見えてくる、別の側面
ここまでは、権限委譲や仕組み化の話として、比較的よく語られる原因です。
しかし、もう一歩踏み込むと、別の側面が見えてきます。
部長職を置くと、目に見える利益が減る
仮に、部長職を新たに配置すると、その分の人件費が発生し、会社の利益は減ります。
本来であれば、社長がプレイヤー業務との兼任を解いたのですから、その部長職の給与分だけ、役員報酬を減らせば、収支のつじつまは合います。
理論としては、その通りです。 ただ、現実には、それを実行に移すことが難しい場合があります。
役員報酬を下げることには、生活面での事情や、心理的なハードルなど、理屈だけでは割り切れない要素が絡んできます。
その結果、役員報酬を維持するために、社長自身が現場に出続けざるを得ない、という会社も、現実には存在します。
※選任を配置し、組織的に動くことで、今までよりも、売上、利益が少し遅れて上がってきますが、
そのためには仕組みを理解し、手順に沿って進めていく必要性があります。これが分からないので、一歩を踏み出せない会社も多い。
本当に任せられる人が、育っていない場合もある
「任せる」という判断は、任せられる相手がいて初めて成立します。
これまで人材を育ててこなかった。育てようとしたが、うまく育てられなかった。 あるいは、育っていた人材が、途中で辞めてしまった。
こうした事情から、実際には「任せたいけれど、任せられる人がいない」という状態にある会社も、少なくありません。
役員報酬や経費の使い方を、他人に見せにくい場合もある
もう一つ、現実としてよく見られるのが、役員報酬の水準や、会社経費の使い方について、社内外にオープンにしづらいという事情です。
法人としての経費と、社長個人の支出が、明確に分かれていない状態が続いていると、権限委譲や情報公開を進める際に、その部分が障壁になることがあります。
週10時間経営に近づくには、「法人格」と「社長個人」を切り分ける必要がある
ここが、週10時間経営を実現するうえで、避けて通れない論点です。
法人としての会社と、社長個人。 この2つを、明確に切り分けて判断する視点が必要になります。
役員報酬は、感覚や生活の必要性からではなく、会社の業績や役割に応じた、説明できる基準で決める。
経費は、法人としての支出と、個人の支出を、明確に分けて管理する。
この切り分けができて初めて、部長職への権限移譲も、役員報酬の見直しも、無理なく進められるようになります。
逆に、この切り分けができていないと、どれだけ仕組み化を進めようとしても、どこかで足踏みしてしまいます。
この状態を放置すると、何が起きるか
社長の時間が現場対応に奪われ続ける状態や、法人と個人の判断が混在した状態を放置すると、次のような影響が積み重なります。
- 経営戦略や、数年先を見据えた意思決定に使う時間が確保できない
- 幹部やスタッフが、責任ある判断を経験する機会を失い、いつまでも育たない
- 役員報酬や経費の整理ができないまま、組織の透明性が低いまま固定化される
- 社長が体調を崩したり、長期不在になったりした際に、会社の機能が止まってしまう
「社長がいないと会社が止まる」
これは、多くの中小企業が抱える、共通の構造的なリスクです。
週10時間経営に近づくために、今できること
大がかりな改革を一度に進めなくても、次のようなステップから始められます。
- 社長が担っている業務を、すべて洗い出す
- そのうち「自分でなければできない業務」と「任せられる業務」を仕分ける
- 法人としての経費と、個人の支出を、明確に分けて整理する
- 役員報酬の水準を、感覚ではなく、会社の業績や役割に基づいた基準で見直す
- 任せる際の判断基準を、具体的な言葉として書き出す
- リスクの小さい業務から、段階的に権限を委譲していく
いきなりすべてを手放す必要はありません。 小さな範囲から始めることが、現実的な進め方です。
仕組み化・組織改善の考え方
週10時間経営は、単に社長を楽にするための考え方ではありません。
社長が現場対応から離れることで生まれる時間を、経営戦略や、組織づくりといった、社長にしかできない仕事に振り向けていく。
そのための土台が、仕組み化と権限委譲、そして法人と個人を切り分けた経営判断です。
判断基準の言語化、業務の標準化、幹部育成、経営計画の実行、そして役員報酬や経費の整理。 これらはすべて、週10時間経営という状態にたどり着くための、一連のプロセスとしてつながっています。
相談を検討すべき目安
以下に複数当てはまる場合は、自社だけでの改善に限界が来ている可能性があります。
- 現場対応に追われ、経営戦略を考える時間がまったく確保できていない
- 自分がいなければ、会社の業務が回らないと感じている
- 幹部やスタッフに、判断を任せる基準を持てていない
- 役員報酬や経費の使い方について、社内外に説明しづらい部分がある
- 任せたいと思っても、任せられる人材が育っていない
よくある質問
Q. 部長職を置くと利益が減るなら、置かない方がよいのでしょうか。 A. 短期的には利益への影響がありますが、社長がプレイヤー業務から離れることで生まれる時間を、経営に振り向けられれば、中長期的な成長につながります。あわせて役員報酬の水準を見直すことで、収支のバランスを取ることも検討できます。
Q. 役員報酬を見直すのが難しい場合、どうすればよいですか。 A. 生活面の事情なども絡むため、一気に大きく変える必要はありません。まずは、会社の業績や役割に基づいた、説明できる基準を持つことから始めるのが現実的です。
Q. 任せられる人材が本当にいない場合、どうすればよいですか。 A. 外部からの採用も選択肢の一つですが、まずは既存のメンバーの中から、小さな範囲で経験を積ませることから、育成を始めることも可能です。
Q. 法人と個人の経費が混在している場合、どこから整理すればよいですか。 A. まずは、現状どのような支出が法人経費として計上されているかを、正確に把握することから始めるのが現実的です。専門家である税理士に相談しながら進めることをおすすめします。
Q. 週10時間経営に近づくには、どのくらいの期間がかかりますか。 A. 会社の規模や、法人・個人の切り分けの状況によりますが、業務の洗い出しから小さな権限委譲までは数ヶ月、実際に週10時間規模に近づくまでは1年以上を見込む会社が多く見られます。
■まとめ
週10時間経営とは、社長が毎週10時間しか働かないという意味ではなく、社長が現場から抜けても会社が自走して回る状態を目指す考え方です。
その実現を阻む要因は、権限委譲や仕組み化の不足だけではありません。
部長職を置くことによる利益への影響、役員報酬の見直しの難しさ、任せられる人材の不在、法人と個人の経費が切り分けられていないことなど、より現実的な壁が存在します。
法人格と社長個人を明確に切り分けて判断すること。 これが、週10時間経営を本当の意味で実現するための、避けて通れない土台になります。
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